座談会
ISSUE wig+(ウィッグプラス)座談会─JHD&C×アデランス×資生堂-1
wig+を開発するに至った理由、また、JHD&C、アデランス、資生堂それぞれの担当者が、髪に悩みをもつ人たちと社会生活についてどのように考えているかなど、たっぷり語り合った座談会の様子をお届けします。
日本でのヘアドネーション活動の開拓者であるJHD&C、ウィッグのトップメーカーとして豊富な技術とノウハウを持つ株式会社アデランス、ウィッグの扱いに精通しているヘアメイクアップアーティストが多数活躍する株式会社資生堂。
この3者が共同開発したファイバー製医療用ウィッグ『wig+(ウィッグプラス)』は、年齢制限を設けずに、できるだけリーズナブルに、おしゃれなヘアスタイルアレンジを実現していただけることを目指して開発・製作しました。
JHD&C、アデランス、資生堂の3者コラボで完成した「wig+」
一般に購入できる従来のウィッグとは一線を画したコンセプトのwig+を開発するに至った理由、また、JHD&C、アデランス、資生堂それぞれの担当者が、髪に悩みをもつ人たちと社会生活についてどのように考えているかなど、たっぷり語り合った座談会の様子をお届けします。
wig+(ウィッグプラス)座談会─JHD&C×アデランス×資生堂
参加者(順不同・敬称略)
座談会メンバー
- 資生堂
トップヘアメイクアップアーティスト:神宮司芳子 - アデランス
商品企画開発部:水沼宏樹 - JHD&C
代表:渡辺貴一
広報:今西由利子
リモート参加
- 資生堂
ビューティークリエイションセンター:小松原威 - アデランス
グループCSR広報室:中原梢、田中優衣
目次
JHD&C×アデランス×資生堂の共同開発「wig+(ウィッグプラス)」
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渡辺:
みなさん、お忙しいところお集まりいただいてありがとうございます。つい先ほど、資生堂ヘアメイクアップアーティストの神宮司(じんぐうじ)さんによる+(ウィッグプラス)のヘアアレンジレクチャー動画の撮影を終えたばかりで、興奮冷めやらぬままといった感じですが、座談会に移りたいと思います。
動画の撮影場所となったJHD&C SALON(ジャーダックサロン)※から4名と、オンライン参加の3名、合わせて7名で「wig+」についての座談会を行いたいと思います。
座談会のようす(右から)アデランス・水沼さん、資生堂・神宮司さん、JHD&C・渡辺、今西
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今西:
それでは、まずは簡単に自己紹介をお願いします。
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神宮司:
資生堂ヘアメイクアップアーティストの神宮司です、よろしくお願いします。
資生堂の宣伝広告の他、モデルさんや俳優さんのヘアメイクを手掛けたり、サロンスタッフの育成やブランディングに携わらせていただいたりしています。また、がん患者さんへの「外見ケア」をライフワークとして取り組んでいます。 -
小松原:
資生堂ビューティークリエイションセンターの小松原と申します。主に、神宮司さんのようなヘアメイクアップアーティストのプロデュースと、広報などを担当しています。よろしくお願いします。
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水沼:
アデランス商品企画開発部の水沼と申します。今回、ウィッグの企画開発を担当させていただきました。今日はよろしくお願いします。
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中原:
アデランスグループCSR広報室の中原と申します。普段はニュースリリースの作成や社内報をメインに業務を行っております。よろしくお願いいたします。
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田中:
同じく、アデランスグループCSR広報室でCSRを主に担当しております、田中と申します。よろしくお願いいたします。
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渡辺:
JHD&C代表の渡辺です。よろしくお願いします。
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今西:
JHD&C広報の今西です。よろしくお願いします。
CHECK!
- ※JHD&C SALON(ジャーダックサロン)
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「JHD&C SALON」は、“新しい美容とサロン”をコンセプトに2021年秋、前身となる「JHD&C SATELLITE SALON」としてスタートし、2024年6月にJHD&C直営の「JHD&C SALON」としてリニューアルオープン。
髪の毛を切る人も、切らない人も、髪の悩みを抱えて誰にも相談できずにいる人も、ウィッグユーザーも同じようにお迎えできるヘアサロンとして誕生。通常のサロンメニューに加え、ウィッグアドバイザーによる無料試着体験、ヘアドネーションカット、ウィッグカット。
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渡辺:
アデランスさんは、2016年から「Onewig」─ 寄付された髪(ヘアドネーション)だけを使用して作ったメディカル ウィッグ ─の製作を引き受けてくださっていて、JHD&Cのパートナーとして長いお付き合いがあります。
JHD&Cの無償提供ウィッグ「Onewig」。ウィッグケアに役立つ物品もプレゼントしている
今回新しく開発に取り組んだ“wig+(ウィッグプラス)”は、新たに資生堂さんが加わってくださいました。よろしくお願いします!
wig+(ウィッグプラス)開発の経緯
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渡辺:
まず、人工毛(ファイバー製)のウィッグ「wig+」を販売するに至った経緯を簡単にご説明します。
JHD&Cが、頭髪に悩みを抱える18歳以下の子どもたちに無償提供している「Onewig」は、チャリティで行っているため1年間で提供できる数には限界があって、提供まで長くお待たせしている現状があります。JHD&C事務局で毛髪仕分け作業をする渡辺
このチャリティを立ち上げたとき、市場に流通しているウィッグの殆どが成人を対象にしていて、子ども用ウィッグの選択肢が極端に少ないために18歳以下のお子さんを対象にしたんです。
そういう理由で19歳以上の方には無償提供ができないのですが、Onewigを気に入って、年齢制限を超えたあとに購入してでも使い続けたいと思ってくださる方もいらっしゃるんです。
しかし、入手方法のハードルが高いことなどが前々からの問題としてありました。それから、やっぱり、ウィッグがひとつしかないというのは靴下や下着が1つしかないのと一緒なので不便なんですよね。ウィッグを日常使いされている方ほど「洗い替え」の需要があるんです。
後ほど詳しく触れたいと思いますが、無償提供のウィッグだと申し込んだ順番通りにしか渡せませんが、購入できるウィッグをリーズナブルに用意できれば、洗い替えの需要にお応えできると考えました。
それで、『年齢制限を設けず、なるべくいいものを、できるだけリーズナブルに販売したい。』そういう思いがあって何年も前から考えていたことを、今回ようやく実現することができました。
「年齢制限なく、高品質なものをリーズナブルに」という思いが実現したwig+
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今西:
JHD&Cが企画したウィッグということで、「どうしてヘアドネーションの髪の毛を使わずに、人工毛を使うの?」という疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんよね。
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渡辺:
もう本当に、そもそもなんですが、ドナーの皆さんはヘアドネーションという活動に賛同して協力してくださっていますから、無償提供ウィッグのために寄付してくださった髪の毛を「販売用のウィッグにも使用します」とは、とてもできません。
仮に了承を得たとしても、また別の観点からの疑念があるんです。
JHD&Cに寄付される髪の毛の4割以上は未成年の方から寄せられています。ヘアドネーションの髪を使うということは、小さなお子さんの髪を販売用のウィッグに使用する可能性が出てくるわけです。
それは、国連子どもの権利委員会が提唱する「国際児童労働撤廃計画」※にも抵触する恐れがあるんです。
CHECK!
- ※国連子どもの権利委員会が提唱する「国際児童労働撤廃計画」
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国連子どもの権利委員会は、子どもに対する行動の普遍的な倫理的原則と国際的な行動基準を定めた「子どもの権利条約」のもとに設置された委員会。18人の独立した専門家で構成され、各国の条約実施状況を定期的に審査・勧告を行う。
国際児童労働撤廃計画には、子どもの労働防止、子どもの社会復帰、教育などがある。
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今西:
そうですね。また、実用性からも人工毛にしたという面はもちろんありますね。
資生堂の神宮司さんがウィッグの扱いやすさにこだわって監修したヘアスタイルを実現するために、アデランスの水沼さんが複数の耐熱ファイバーをブレンドしたウィッグの開発にこだわってくださいました。
Wig+ビジュアル撮影風景
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渡辺:
それで、資生堂さんとは2019年秋のがん患者さんを支援する「ラベンダーリング※」の時に初めて神宮司さんにお会いしたことがきっかけとなり、今回のプロジェクトが始まりました。
CHECK!
- ※ラベンダーリング
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がんになっても笑顔で生活できる社会の実現を目指して、さまざまな活動を有志によって運営するプロジェクト。
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今西:
神宮司さんは資生堂美容室のエグゼクティブビューティーディレクターでありながら、サロンワーク、そして、がん患者さんへの「外見ケア」にも取り組まれています。ホスピタリティにこだわってご活躍されていらっしゃいますよね。
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小松原:
資生堂はもともと、薬局でスタートした会社なんです。明治5年、1872年のことで、今年(2022年)創業150周年を迎えました。
創業者・福原有信はもともと海軍病院の薬局長だったんですね。
当時西洋の薬剤は非常に高価で、なかなか庶民には届かず、市中には粗悪品が出回っていました。これではいけないと海軍をやめて銀座に開いたのが日本初の洋風調剤薬局「資生堂」です。「美と健康により人々の幸せを願う」という創業以来の理念は今に受け継がれています。
先輩社員からは「社会のために自分は何ができるのかを常に考えなさい」「本物にこだわりなさい」「変革を恐れず、決してあきらめない」ということも教えられてきました。 -
今西:
なるほど、そのような社風もあるのですね。
JHD&C・資生堂・アデランス共同開発のwig+
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今西:
wig+は、決まったヘアスタイルのウィッグを販売するのではなく、ひとつのウィッグで楽しめる5つのスタイルを提案していることも大きな特徴ですよね。
先ほど、レクチャー動画の撮影で、神宮司さんが5つのスタイルを切り出していく様子を間近で拝見していて、圧倒されました!
「せっかく買うのなら、ひとつのウィッグをいろんなヘアスタイルで楽しみ尽くしてほしい」という神宮司さんの想いが伝わってきました。 -
神宮司:
顔まわりは絵の額縁のようなもので、性別問わずここを変えることでイメージをいろいろと変えることができますよ。私は、前髪と印象の法則を『バングメソッド』と名付けています。
ウィッグについても地肌から生えている毛髪と同じように、分け目を変えられたり、少しおでこを出せたり、前髪をおろせたりなどといった顔周りのアレンジができるものがほしいという思いがありました。
今回のwig+のプロジェクトでは特に、生え際にこだわりました。
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今西:
このレクチャー動画はJHD&CのYouTubeチャンネルでご覧いただけますので、ウィッグユーザーさんや美容師さんはもちろん、ヘアスタイルに関心のある方にも見ていただきたいです。
JHD&C YouTubeチャンネルはこちら
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渡辺:
そもそも資生堂さんとのご縁を繋いでくださったのは、JHD&Cと古くからお付き合いのある美容ディーラー・ガモウ関西の藤本社長でした。
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神宮司:
はい。以前、ガモウ関西さんに美容師さんのコンテストの審査員として呼んでいただいたんですよ。当時、私の髪がお尻につくぐらいまで長かったので、藤本さんが「神宮司さん、ヘアドネーションするんですか?」って声をかけてくださいました。
そうなんですってお話をしたら、じゃあ今度JHD&Cの渡辺さんを紹介しますっておっしゃって、それからしばらくしてラベンダーリングを大阪の毎日放送で開催した時に、会場に渡辺さんを連れてきてくださったんです。
そこで渡辺さんと初めてお会いして「何か一緒にやりたいですね」ってお話しさせていただいたんですよね。
資生堂トップヘアメイクアップアーティスト 神宮司芳子さん
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渡辺:
そうそう、ただ、その後すぐにコロナが流行し始めて、具体的なお話はできなかったんですよね。
同じ頃にコロナの影響でアデランスさんの工場も止まって、2020年はほとんどウィッグの無償提供もできないなか、対面で直接採寸しなくても提供できる仕組みを模索しました。
現在の非接触型のウィッグ提供システム※をアデランスの水沼さんを中心に試行錯誤で確立させることができて、秋以降にようやく運用できるようになりました。
CHECK!
- ※非接触型のウィッグ提供システム
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コロナ禍でもウィッグの無償提供活動を継続するため、2020年秋に導入した新しいメジャーメントシステム。ウィッグ製作に不可欠な頭の採寸(メジャーメント)はこれまで対面で行っていたが、非対面・非接触で行うことが可能になった。
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神宮司:
私の方も、資生堂社内でいろいろなアイディアを募るコンテストに「ウィッグを作りたい」というテーマでプレゼンしていたんです。
日々のサロンワークの中で、がん患者さんが使うウィッグにはおしゃれで機能的で安いものがあまりないとお客さまから伺っていて、外見のケアに髪の毛ってとても重要なんじゃないのかなと思っていました。
そこで、もっとおしゃれを楽しめて、しかも病状によっていろんな髪型に変えていけるようなウィッグを開発したいってずっと考えていました。そんな時に渡辺さんと知り合って、これだ!と。アデランスさんにも入っていただいたことで、すごく引き寄せられた感じがしました。
小松原さんをはじめ資生堂のメンバーに相談して、いろんなことを試しながら少しずつ進めていって、やっと形になったなっていうところですね。
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