トリートメント処理工程レポート
皆さまから寄せられた、たくさんの髪の毛。
年代、性別、環境もさまざまな大勢のドナーから、いろいろなストーリーを持つ髪の毛が集まり、一体のウィッグに生まれ変わります。
ウィッグ誕生まで、どんな処理を行っているのでしょうか?
JHD&Cと信頼関係にある関係者のご厚意で、特別にその工程を見せていただくことができました。
お問い合わせも多い「トリートメント処理」。
詳しくレポートします!
トリートメント処理工程について
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トリートメント処理工程vol.1
ドネーションされた毛髪を化学薬品に浸けて、キューティクルの表層を取り除きます。
毛髪には、うろこ状のキューティクルが8〜10層ほど重なって存在しています。
うろこ状のキューティクルの表層を取り除くことで、髪の毛が扱いやすい状態になります。
同時に、毛先・根元の向きにかかわらず利用できるようにもなります。この薬品の濃度や浸け置き時間を見極めるのは、熟練の職人技。
髪の毛にダメージを与えず、キューティクルの表層のみを取り除くには、長年の経験がいるようです。 -
トリートメント処理工程vol.2
キューティクルを酸性の薬品で取り除いた後は、髪の毛のPH(ペーハー、ピーエイチ…水素イオン濃度指数のこと)を整えるために薬品で中和作業を行います。
この時点で、さまざまなドナーの髪の毛の質感は整ってきますが、色みはまったく揃っていません。ダメージの大きい髪の毛は薬品で溶けることがあるので、溶液に浸す時間や中和するタイミングを計るのがとても難しいそうです。
ちなみにファッションウィッグに使用する場合は、この工程の前にブリーチ剤で金髪まで色を抜きますが、『Onewig』の工程では、できるだけダメージを避けるためにその処理はしません。 -
トリートメント処理工程vol.3
中和し終えた髪の毛です。
トーンが明るくなっているのがわかります。
質感も色もバラバラの状態ですが、この後、染毛することで色みが均一になります。
髪の毛が絡まり合っているのが見てとれます。
この状態では「一体どうなるんだろう?」と少し不安になります。 -
トリートメント処理工程vol.4
次は染毛工程です!
染毛剤が入った釜に髪の毛を漬け込んで、揉みほぐします。
この工程の作業場には大きな流しや釜がたくさんあり、なんだか給食室や食品加工工場にも見えます。 -
トリートメント処理工程vol.5
染め上がった髪の毛です。
水にさらして染毛剤を洗い流します。 -
トリートメント処理工程vol.6
染め上がった髪の毛は、職人さんが手作業で何度もすすぎながら、絡まりを丁寧にほぐしていきます。
キューティクルは先の工程で取り除かれているので、絡まった髪の毛はほぐれやすくなっています。じつに気が遠くなるような作業を、職人の技で黙々とこなしていきます。
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トリートメント処理工程vol.7
染毛された髪の毛をほぐす作業の手伝いをさせていただきました!
視察したJHD&Cの職員は現役の美容師ということもあり、この工程は職人さんと同じ速度でこなせました。それを見た工場長から「明日からうちで働かないか?」と冗談も飛び出し、和やかな雰囲気で作業が進んでいきます。
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トリートメント処理工程vol.8
染毛された髪の毛をときほぐし、一定量の毛束にしてゴムでまとめます
(左は作業前の絡まった状態の毛束、右は作業後)。
ここまでくると、薬品を使った髪の毛の処理はほぼ終盤です。酸性の薬品を使った廃水処理が気になり、質問したところ、廃水はタンクに溜めて、石灰と混ぜて中和し無害化した後、廃水処理業者に引き渡すとのことでした。
廃水を溜めておくタンクが、この作業場の裏にたくさんありました。 -
トリートメント処理工程vol.9
束ねられた毛束を、専用の脱水機で脱水します。
先ほどの工程でゴムでしっかり結わえてあるので、バラバラになることはないそうです。
音は意外に静かで、話している間にいつの間にか終わっていました。
まさか、髪の毛を脱水機にかけるとは思いもしませんでした…。
やはり自分の目で見てみないとわからないものですね。この作業場でのプロセスは、これでおしまいです!
皆さまからドネーションされた髪の毛は、質感・色が均一化された後、別の作業場へと運び込まれ、次の工程に進みます。
ここまでですでに9つの処理作業を経ていますが、人の手でないとできない工程が多いと感じました。
機械化は難しいだろうなあというのが、見せていただいて感じたことです。 -
トリートメント処理工程vol.10
脱水された髪の毛は、乾燥作業場(ドライプロセス)に運ばれます。
太陽光で乾燥させるため、天井がガラス張りになっています。
小学校の教室くらいの広さです。雑菌が繁殖しないように、スピーディーに手際よく並べていきます。
カートに載せられているのが、化学処理を終えたばかりの、皆さまからドネーションされた髪の毛です。
ちなみに干されているのは、ミャンマーの小数民族のブリーチされた髪の毛だそうです(一瞬、タタミイワシが干してあるように見えてしまいました)。こうして見ると、髪の毛の束も、薬品処理後はかなり目減りしているのがわかります。
天気にもよりますが、だいたい丸1日で乾くそうです。ここでまたまたお手伝い。皆様からドネーションされた髪の毛を、干しにかかるところです。
厚みが出ると乾きが遅くなって雑菌が繁殖するため、できるだけ平らに干すのが重要だそうです。 -
トリートメント処理工程vol.11
次に「梳毛・選毛・整毛・結束作業」が始まります。まず、梳毛作業では、化学処理と乾燥が終わった髪の毛を、大きな剣山のような道具ですいて艶を出し、同時にゴミや汚れなどを取り除きます。
髪の毛をブラッシングする感じに近いです。
写真ではわかりにくいのですが、この工程には、職人技の極みを感じました。
職人さん一人一人が、間仕切りされた低い作業机で、黙々と作業をこなしています。この間仕切りには、隣で作業中の髪の毛と混ざらないようにする目的があるそうです。
音楽や話し声はまったく聞こえず、ただ、髪の毛をすく音だけが響いています。脇目も振らず一心に作業する様子に気後れして、シャッターを切るのをためらうほど…。
毛髪化学処理の作業場の和気あいあいとした雰囲気とは対照的です。
この工程は、真の熟練職人にしかできないようです。 -
トリートメント処理工程vol.12
この工程では、髪の毛の状態や長さなど、細かいカテゴリーに仕分けます。
これがなんとすべて手作業!気が遠くなるほど手間のかかる仕事です 。職人さんが一束一束、髪の毛をつかみ、長さや髪質によって瞬時に仕分け、剣山ですきながらツヤを出していきます。その手際の良さに目を見張ります。
熟練の職人にしかできないのも納得です。化学処理を施した髪の毛にはキューティクルがなく、髪の毛に天地(根元と毛先)がないので、どちらの向きにしても問題なく使用できる状態です。
この工程に移ってから、お手伝いはさせてもらえなくなりました。
かなり繊細さが必要な作業のようです。
この選毛作業が終わると、次の工程に移ります。 -
トリートメント処理工程vol.13
選毛作業の工程が終わると、髪の毛の束を職人さんが一本一本検品します。
ここでは、色の違う髪の毛が混入していないか、ゴミなどが混ざったりヨレたりしていないか、手と目を使ってチェックします。髪の毛には十分に艶が出て、品質の高さが見てとれます。
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トリートメント処理工程vol.14
検品された髪の毛は、整毛処理に入ります。
髪の毛を整え束にして、その束を結束しやすいように並べながら、細かく分けられた長さ別に揃え、均一に整えます。さまざまな人からドネーションされた髪の毛は、色や質感、長さが整えられ、ウィッグに使用できる髪の毛へと生まれ変わろうとしています。
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トリートメント処理工程vol.15
いよいよ最後の工程です!
皆さんからドネーションされた髪の毛は生まれ変わり、約20人分程度が一束に結束されます。
職人さんの手の感覚のみで、ほぼ同じ重量の髪の束に結束されるのです。
熟練の作業です!手仕事のすごさを思い知りました。今回、皆さまからドネーションされた髪の毛を、工場到着から最後の処理まで追いかけることができ、結束作業を目の当たりにして、なんだか目頭が熱くなってしまいました。
この後、生まれ変わった髪の毛は梱包され、また日本へ送り返されます。そして、誰かのウィッグに再び生まれ変わる日を待つのです。