座談会
ISSUE wig+(ウィッグプラス)座談会─ JHD&C×アデランス×資生堂-4
wig+を開発するに至った理由、また、JHD&C、アデランス、資生堂それぞれの担当者が、髪に悩みをもつ人たちと社会生活についてどのように考えているかなど、たっぷり語り合った座談会の様子をお届けします。
前ページ:wig+開発のこだわり
それぞれが、持てる力を持ち寄って完成したwig+
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渡辺:
今回のwig+では価格を限界まで抑えて、下手したら赤字になるんじゃないかっていう価格での販売が実現しました。それはアデランス、資生堂、JHD&Cがそれぞれに得意分野を手弁当で持ち寄っているからなんですね。それぞれの会社の理解がよく得られたなあと思っているんです。
Wig+プロジェクトは3者がそれぞれの強みを持ち寄って実現した
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小松原:
元々、資生堂では、あざややけど、傷跡などの肌にお悩みを持つ方のための商品開発や、がん治療による外見の変化に対応した美容テクニックの開発など、継続して取り組んできました。
今回の取り組みも、このような地道な社会貢献活動のひとつとして位置付けをしてもらえているから実現できたんだと思います。 -
渡辺:
神宮司さんというアーティストの存在やバングメソッドも含めて、やっぱりノウハウというか、会社にとってある種の知財だと思うんですね。この動画を公開するのは、大事な財産を今回のプロジェクトに無償で提供することになりますよね。
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神宮司:
今まで培ってきた知識や技術、経験が何かに役立つっていうのは、やはり嬉しいので、「神宮司さんの思いを叶えて、思うようにやったらいいよ」と会社がバックアップしてくれた環境はすごくありがたいですし、感謝しています。
撮影された画像を真剣にチェックする神宮司さん
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渡辺:
水沼さんはいかがですか?ウィッグの開発者として思うところはありますか。
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水沼:
そうですね、私は開発担当なので、利益が出る・出ないは別のこととして、とにかくいいものを作っちゃおう!みたいに考えるところがあります。ただ、新しいものができたなって思うと、すぐまたそのハードルを超えた製品を作り続けていかなきゃならないので、やっぱり頭を悩ませます。
それでも結局、楽しいと思うことには勝てなくて、挑戦し続けちゃうんですよね。 -
渡辺:
やっぱり人間って、チャレンジすることでより良くなっているんだと思います。ウィッグもそうですし、いろんな人が困っている現状ってやっぱりあると思うので、困難を超えるっていうチャレンジによって、少しでも希望が持てるような社会になっていったらいいですよね。
社会生活とウィッグ、アピアランスケア
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渡辺:
この座談会のメンバーに眼鏡の方が4人いますけど、100年前は眼鏡って医療具だったんですよね。でも今は、ファッション感覚でかけている方も多いと思います。ウィッグも同じように、wig+をきっかけに医療具だったものが自己表現のひとつになって、普通のものになってほしいっていう希望があります。
活動をしていて感じるのは、病気そのものを隠して治療を行い、その後普通に出社されて、でも髪の毛が抜けてくるのでウィッグを購入する方が多くいらっしゃるということです。
そんな時、自分の元の髪型に近いウィッグを望まれるんですね。命をつなぐために治療を受けて、その結果脱毛してしまうことを会社に言いにくい現状があるんですよ。
難しい問題ですけど、それもひっくるめてウィッグが抱えている課題なんだと思います
JHD&C代表 渡辺
アピアランスケアの提唱者でいらっしゃる国立がん研究センターの元アピアランス支援センター長の野澤桂子先生から伺った話ですが、どんなウィッグを買えばいいのか、何を選んだらいいのかが分からないという方に対して野澤先生は、「あなたの気に入ったウィッグが、1年分の美容院代で間に合えば、あまり迷わなくてもいいですよ」と話すそうです。
例えば美容室に年間5万円かける人は5万円ぐらいのウィッグでいいと思うし、毎月カラーとカットをするから年間15万円くらいはかけられると思ったら、それぐらいの価格帯のウィッグでもいいんじゃない?もともと髪に対するこだわりもコストのかけ方も、人によって違うのだから、と。
ウィッグは値段じゃなく、その人に似合うかどうかだとおっしゃっていて、それには僕も全く同感です。100万円のウィッグを買っても違和感があると結局使わないし、5000円のウィッグでも自分にすごくフィットした時にはそれが最高のウィッグなんです。
JHD&Cの場合、もともと「ヘアドネーションで作る無償提供ウィッグ」という意味があるから人毛にこだわるんですけど、野澤先生のおっしゃる通り、似合っていて自分らしさがあることが非常に大事なんですね。
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神宮司:
若い世代の方はウィッグもファッション感覚でカジュアルにつけこなしている方が多いですが、大人の方がさりげなくつけたいと思った時に、ウィッグっていきなりハードルが上がるんですよね。
ウィッグをつけることで、その方がすごく魅力的になるっていうところまで落とし込めたらいい。眼鏡のようにかけただけでフィットするとは限らないのが、ウィッグの難しいところです。ウィッグそのものの良さだけではなく、美容師さんがつけ方やフィットのさせ方をサポートすることが大切ですよね。
お洋服を選ぶ時に販売員さんに相談するのと一緒で、ウィッグも誰かに冷静に見てもらって似合うかどうか知りたいし、それが行きつけの美容師さんだったらなおさらいいし、さらにお客さまが気に入ったウィッグがより素敵に見えるヘアスタイルを美容師さんが提案できるのが理想ですよね。
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水沼:
美容師さんって「似合わせの達人」ですから、気心知れた美容師さんと相談しながら選んで、もっと似合うようにしてもらえたら嬉しいですよね。
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神宮司:
美容師さんと一緒に選んだりカットしてもらいたい方もいれば、美容師さんに一切声をかけられたくなくて、インターネットや通販などで買いたいという方もいる。お客さまにもいろんな方がいらっしゃいます。
ただ、店頭でフィットさせてあげられる美容師さんが極端に少ないですよね。美容室はいっぱいあるのに、ウィッグを扱える美容師さんはまだまだ少ないっていうことは、逆にそこを増やしていくともうちょっとウィッグの未来が開かれてくるのかなと思います。
撮影はリラックスした雰囲気の中で行われた
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渡辺:
ウィッグは使っていないけれども、円形脱毛症がある方も多いですよね。人知れず悩みを抱えている方は潜在的に多かったりします。
ぱっと見た時の人の印象を決めるのはお顔なんだけど、顔周りのヘアスタイルがその人のイメージを左右することは多々、ありますよね。 -
神宮司:
がん患者さんのアピアランスケアでいろいろなメイクの情報を発信していますが、治療で脱毛した方のお悩みはやっぱりヘアに関することなんです!
アピアランスケアに長年携わってきた経験や技術はあっても、ヘアのお悩みを解決できるような具体的なツールがなかったので、今回wig+が完成して感慨深いです。
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渡辺:
僕のお客さまで「1年半か2年ぐらい美容室に来ないけど、私のことを忘れないでね」っておっしゃった方がいて、事情を聞いたら、実はがんと診断されて、治療で髪が抜けるから美容室にくる必要がないんだって言われたことがありました。
美容師は髪の毛の専門家なのに、無力なんですよね。
髪の毛が抜けた方に対して、美容室は不要な施設なんです。
毛についてのあらゆることに対応できるのが美容師のはずなんですけど、何にもしてあげられないっていうのは、神宮司さんがおっしゃった「ツールがない」こととちょっと似ていると思います。美に携わる資生堂という企業の社員として、そういったユーザーの思いについて小松原さんはどう感じていらっしゃるか、お伺いできますか。
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小松原:
私自身、今回のプロジェクトをきっかけに5年後、10年後に何かが変わるんじゃないかな、変わればいいなっていう思いがすごく強くなってきたんですね。
美容室に行ったらお店の看板のカット料金の下に、ウィッグカット料金って当たり前のように書いてあるような、このプロジェクトに関わらせていただいてよかったと思える日が来るといいなと思います。
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渡辺:
水沼さんは、アデランスの社員としてどうお感じになりますか。
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水沼:
ウィッグを販売する会社の人間として、ウィッグがもっと一般化したらいいなと思うことがありますね。もちろん医療用としての細かなルールはありますけど、どんなウィッグでも医療用で使えていいと思うし、医療用ウィッグがファッショナブルじゃおかしいとか、そういうよくわからない風潮は早くなくなってほしいと思っています。医療用ウィッグとファッションウィッグの境目をもっともっとなくしていきたいですね。
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渡辺:
それでは最後に神宮司さんからメッセージをお願いします。
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神宮司:
医療用ウィッグには、お悩みがある方が人目を避けてこっそり作るものというイメージがなぜかあって、それも変えていきたいと思っています。
お悩みのある方に寄り添えるものを、といった思いが根底にありますので、ウィッグをつけることで気持ちが前向きになれたり、生活を楽しめたり、このwig+がそういう存在になれたらとっても嬉しいですね。 -
渡辺:
皆さんと知恵を絞って取り組んだこのプロジェクトがきっかけになり、未来がより良いものに変われば素晴らしいと思います。
今日は本当にありがとうございました!
撮影現場で和気あいあいと語り合う3人
撮影現場で和気あいあいと語り合う3人
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