座談会

ISSUE アデランス×北海道帯広三条高校放送局顧問×JHD&C 座談会
JHD&Cとの出会い、少し専門的なウィッグのこと、がん治療とウィッグ、社会との関わりについてなど、熱のこもった座談会をレポートします!
アデランス×北海道帯広三条高校放送局顧問
×JHD&C 座談会
JHD&Cヘアドネーション活動において、医療用ウィッグの製作・メンテナンスを一手に引き受けてくださっている株式会社アデランス。
そして、JHD&Cとアデランスがタッグを組むきっかけを作ってくださった北海道帯広三条高校放送局の安藤佳寿哉先生。
2014年のこの出会いによってJHD&Cの活動は大きく動き出しました。

株式会社アデランスの皆さんと安藤先生にご参加いただき、密を避けて飛沫感染に留意したビデオ会議システムを活用しての座談会が実現しました!
JHD&Cとの出会いから、少し専門的なウィッグのこと、がん治療とウィッグ、社会との関わりについてなど、熱のこもった座談会の様子をお伝えします。
参加者(順不同・敬称略)
株式会社アデランス
- グループCSR広報室:玉橋美咲
- 病院内美容室「こもれび」 店長:是枝貴彦
- 病院内美容室「こもれび」 店長:涌井えりか
- 商品企画開発部 リーダー:水沼宏樹
- (オブザーバー)医療事業部 部長:大里修治
- (オブザーバー)グループCSR広報室 室長:新田香子
北海道帯広三条高校
- 放送局 顧問:安藤佳寿哉先生
JHD&C(ジャーダック)
- 代表:渡辺貴一
- 広報:今西由利子
目次
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渡辺:
今日はどうぞよろしくお願いします!
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今西:
よろしくお願いします。では、まずは自己紹介をお願いいたします。
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是枝:
株式会社アデランス、病院内サロンの是枝です。入社して11年ですが、ずっと院内サロンで働いています。ヘアドネーションはサロンにも問い合わせが多くて、よくカットさせていただいています。よろしくお願いします。
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涌井:
同じく株式会社アデランス、病院内サロンの涌井です。当店が入っている病院も、ヘアドネーションも多くさせていただいています。
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水沼:
株式会社アデランス、商品企画開発部の水沼です。入社して7年目で、既製品ウィッグの開発に携わっています。今回新しくなったJHD&Cさんのウィッグの開発にも携わらせていただきました。しかしヘアドネーションに関する知識は恥ずかしながらほとんどなかったので、今日はたくさんのことを学ばせてもらおうと思っています。
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玉橋:
株式会社アデランス、グループCSR広報室の玉橋です。今日の座談会はすごく楽しみにしていました。よろしくお願いします。オブザーバーとして2名、弊社医療事業部より部長の大里、そしてグループCSR広報室室長の新田も参加させていただきます。
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大里:
よろしくお願いいたします。
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新田:
よろしくお願いいたします。
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安藤:
北海道帯広三条高等学校・放送局顧問の安藤です。2014年にJHD&Cさんとの取材を通じてご縁が始まりました。どうぞよろしくお願いします。
JHD&C、北海道帯広三条高校放送局、アデランスの出会い
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渡辺:
まずは2014年に北海道帯広三条高校の放送局さんが「髪の絆※1」というテーマで、当団体に取材に来られたんですよね。それがきっかけになって、JHD&Cとアデランスさんとのお付き合いが始まりました。
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安藤:
最初は少し、心配したんですよ。お繋ぎしたものの、アデランスさんとJHD&Cさんが対立しちゃったらどうしようって。
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渡辺:
僕も実は、最初は疑っていました(笑)。だって、僕らはタダでウィッグを配っているのに、ウィッグを販売している会社がそれを手伝ってどうするんだって。でも、何度も事務局に足を運んでくださって、お話をするうちに疑問は解けましたね。どうやらうちを潰そうとしているわけではなさそうだぞ、と。
-
今西:
そもそも、どうして高校の放送局とアデランスさんが繋がったんですか?
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安藤:
ヘアドネーションをテーマに番組を作るなかで、JHD&Cさんに取材することになったんですよ。合わせて、ウィッグを作っている会社にも話を聞いてみようということになりました。
ウィッグ会社を調べていくと、アデランスが15歳以下の子どもたちにウィッグをプレゼントしている※2という新聞記事を見つけたんです。それが番組の趣旨に合うということで、アデランスさんにFAXで取材のお願いをしたところ、すぐに広報の新田さんからお電話をいただきました。

株式会社アデランス 愛のチャリティ
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新田:
先生からのFAXを受け取った当時、高校からの取材のお申し込みは初めてだったんです。お電話してみましたら「これから学生が取材の申し込みをしてくるので、どうか対応していただけないか」と真剣におっしゃって、これは学生さんの想いに応えなきゃいけないと思いました。
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安藤:
それで、札幌でアデランスさんを取材した時に「実はJHD&Cさんという団体があるんです」ってお伝えしたのがJHD&Cさんをご紹介したきっかけです。その当時アデランスさんはJHD&Cさんのことを知らなくて、それはどんな団体なんですかと聞かれて。その後すぐにアデランスCSR推進室部長(当時)だった箕輪さんがJHD&Cさんに行ったんですよね。
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渡辺:
そうです、北海道帯広三条高校が来るよりも早く(笑)。僕たちは当時、サロンの2階の四畳半ほどの小さなスペース※3で活動していたんですが、そこに当時COO(最高執行責任者)で現社長の津村さんと箕輪さんが来られて、アデランスとしてどういうご協力ができますかと申し出てくださったんです。

JHD&Cの活動開始当初は「THE SALON(現・know hair studio)」の2階、
スタッフルームで全ての業務を行っていた

ドネーションヘアをまとめるJHD&C代表
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渡辺:
当時、僕らは「拠点がない」ということに困っていました。ウィッグの採寸をするためにレシピエントの自宅や病院まで出張していて、交通費や宿泊費、何より時間がかかると。そんな話をしたら箕輪さんが、じゃあアデランスが全国展開しているサロンを拠点としてご提供しましょうと。
同時に、その時は他社で製作していたJHD&Cのウィッグのメンテナンスケアを、アデランスさんが引き受けてくださった。それが2015年のことです。
さらに翌年の2016年には、アデランスさんによるウィッグの製作が始まった。
こんなに大きな企業なのに、このフットワークの軽さはすごいなと驚きましたね。 -
安藤:
あの当時の生徒たちは卒業して今、23歳です。彼女たちも「20歳になったらヘアドネーションしようね」って約束していました。
-
渡辺:
そうそう、わざわざ大阪のうちのお店までみんなでカットしに来てくれたんですよね!
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安藤:
卒業しても忘れずにいてくれて、嬉しいですね。
CHECK!
- ※1「髪の絆」
- 2014年、北海道帯広三条高校放送局制作のドキュメンタリー番組。ヘアドネーションをテーマにしたこの作品は、「第61回NHK全国学校放送コンテスト」全国大会決勝で優秀賞を受賞。
- ※2アデランスが15歳以下の子どもたちにウィッグをプレゼントしている
- 「アデランス 愛のチャリティ」のこと。
- ※3サロンの2階の四畳半ほどの小さなスペース
- 渡辺が代表を務めるヘアサロン「THE SALON(現・know hair studio)」のこと。JHD&Cの活動開始当初はこのサロンの2階のスタッフルームで全ての業務を行っていた。JHD&Cの原点。
コロナ禍を経て、新たな取組み「非接触のメジャーメント」へ
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渡辺:
今年(2020年)は、皆さんご承知の通りコロナの影響で活動が止まってしまった時期※4があり、コロナを経てこれからどうしようかということを考えなくてはなりませんでした。
そもそもウィッグの提供方法も、今までは予約して、アデランスさんに集まってもらって、型取りして……と、手間をかける分、提供に時間がかかりすぎていたという課題があって、もう少し良いやり方はないだろうかと模索していたところにコロナが来た。
そこに、新しい提供方法として考えていた「非接触のメジャーメント※5」がフィットしたんです。会わずに・触れずにウィッグの提供ができるという最新の取り組みですね。
CHECK!
- ※4活動が止まってしまった時期
- 新型コロナウィルス感染症対策のため、2020年2月18日から5月24日までの3ヶ月余りにわたって事務局を閉鎖、毛髪の受け入れを一時停止した。JHD&C開始以来、毛髪の受け入れ停止は初めて。
- ※5「非接触のメジャーメント」
- サイズ測定用のキャップを用いて非対面で行うリモートメジャーメントのこと。2020年11月より導入したJHD&Cの新しいウィッグ提供システム。
-
今西:
その提供方法のために、新しくウィッグを開発してくださったのが水沼さんなのですね。製作はスムーズに進んだのですか?
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水沼:
私の前任者の時からプロジェクトが始まったので、それを合わせると、サイズ測定用のキャップは1年半程度の期間で4回試作しました。

アデランス商品企画開発部リーダー 水沼宏樹さん
-
水沼:
今までは頭の計測を行い、毛長を指定して、その情報をもとにベース作製から毛植えという、オーダーメイドのような工程を踏んでいました。
これからは5種類のサイズキャップの中からサイズを選び、ベースになるヘアスタイルを4種類から選んでいただくことですぐにお届けできるので、今までより早く提供できるようになります。ウィッグを求めている子どもたちがたくさんいらっしゃる中で、一番早く届けられるセミオーダーウィッグができたのではないかなと思います。
私は既製品の女性用ファッションウィッグ開発を主に担当しているのですが、今回のJHD&Cさんの新しい医療用ウィッグに関しては「子どもたちと周りのご家族が笑顔でいられるためのツール」だと思っています。全国の方に寄付していただいた人毛100%のウィッグで、違和感なく、生活に支障なく使ってもらえるものだと。
対してファッションウィッグはご自身が「おしゃれ」を楽しむためのもので、人工毛も配合することで、自身の髪では難しいカラーやスタイルを容易に楽しむことができるツールです。
ファッションとしてウィッグを求めている方、治療中や治療後の生活の中で必要な自分の髪型を求める方、それぞれに対して良いものを今後も提供したいなと思っています。
ただ最近では、医療用ウィッグ※6といってもカラーやデザインなど「もっとたくさんの選択肢が欲しい」という現場の声も上がってきています。
ウィッグを使用する子どもたちの中にも、本当はもっといろいろな髪型が欲しいと考えている子もいるのだろうなと思います。ただし、それに関しては学校や生活環境、その他様々な要因に制限される部分があることも理解しています。
それでもウィッグを作る側として、使う側、使う人の生活に関わる人たちも含めて、今後はもっと髪型や髪色に対して柔軟に対応できるような社会・環境に変化していってもらえたらいいなという思いはありますね。
CHECK!
- ※6医療用ウィッグ
- 日本産業規格(JIS)基準による性能検査に合格し認証を受けたウィッグのこと。直接頭皮に接触するネット部、スキンベース部、インナーキャップ部等のパッチテストによる皮膚刺激数・ホルムアルデヒドや、洗濯による堅ろう度と汗による堅ろう度の性能や試験方法などが細かく定められている。
アデランスのウィッグの強み
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渡辺:
水沼さんが思う「アデランスのウィッグについて、これが素晴らしい!」というところはどのあたりなんでしょうか?
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水沼:
アデランスの場合は、自社工場があるというのが大きな強みですね。しかも、その自社工場で働いている方の医療やチャリティに対する関心が非常に高いんです。
医療用ウィッグを作る時には、生産工程の中でたくさんある注意点を試作の段階からしっかりと理解して作製し、改良希望にも素早く対応してもらえるので、より良い製品を開発できているかなと思っています。
新しいJHD&Cさんのウィッグでも、試作の時から工場へかなり細かなオーダーをしました。そもそも伸び縮みするウィッグのベースネットを各部位1cmの誤差内で縫製し、キャップの形にするのはとても大変なのですが、それ以外の注意点に関しても厳しくチェックしてくれています。
親身になって対応してくれる工場の方たちのおかげで素晴らしいウィッグを生産できていますし、それが自社工場のあるアデランスのウィッグの強みだと思っています。
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水沼:
今回JHD&Cさんからの希望を受けて、新しいウィッグからアジャスターフックのないゴムのみのキャップに仕様変更しましたが、キャップサイズは先に試着で選んでいるので微調整はゴムだけで十分対応できますし、アジャスターフックというちょっとした突起物をなくすことで、頭皮への刺激の原因も減らせました。
全体を覆っているベースネットについても、今主流の「柔らかくてよく伸びるネット」は、毛が植わる(特に人毛100%のロングスタイル)と重さで引っ張られて、だらんと伸びてしまうんです。JHD&Cさんのウィッグにはフィット感が特に必要だと思うので、柔らかいけれど伸びすぎない、ほどほどに伸縮性のあるネットを選んでいます。
こんな曖昧な言葉でいいのか分からないのですけど(笑)ほどほどが今回のウィッグには大事なんです。

非接触のメジャーメントで使用するサイズ測定用キャップ
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渡辺:
なるほど。玉橋さんは広報として外部の方と接する機会が多いと思いますが、ご自分では自社についてどのように思ってらっしゃいますか?
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玉橋:
一般的な目線で言うと、アデランスはやっぱり「男性用かつらの会社」という印象が強いんですよね。もちろんウィッグはベースになる事業なのですが、そのほかにも美容・医療・健康・外見の支援※7を含めて幅広いお手伝いができる企業なんですよということをお伝えしたいと思っています。
-
渡辺:
そういえば、新規αリポ酸誘導体を配合した頭皮用保湿ローションの「MEDIα※8」という製品がありますね。ウィッグ会社の利益と相反すると思いますが、それでも困っている人に寄り添うんだという姿勢が感じられます。

頭皮用保湿ローション「MEDIα」
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玉橋:
そう言っていただけるとありがたいですね。当社はJHD&Cさんの活動に対してポジティブに捉えている社員が多いようなんです。
この夏、名古屋のオフィスでヘアドネーションをやってみたんですね。事務所の隅を使って、社内の美容師に手伝ってもらって。前々から「60歳の記念に切っちゃおう!」と言っていた社員がいたのですが、ある日の朝、私のところに現れて、「今日切るから!」と言って、お昼休みに突如始まりました(笑)。
すごく長い髪をばっさり切って、ショートヘアにしました。イメージチェンジすることをお客さまに見ていただくことで喜んでもらえるから、と話していました。社内に技術者がいるのもアデランスならではだと思いましたし、自分の意思で気軽にドネーションに取り組む社員が増えているのもすごく嬉しいなと思いました。
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新田:
ヘアドネーションに参加している企業であることを誇りに思う社員が非常に増えていると思います。その誇りが、ポジティブな行動につながっているのではないでしょうか。
アデランスが病院内に展開するヘアサロン「こもれび」
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渡辺:
せっかく今日は院内サロン※9のお2人が参加してくださっているので、いろいろお伺いしたいなと思っています。自己紹介の時に「ヘアドネーションのお客さまがよく来られる」とおっしゃっていましたが、院内サロンにヘアドネーションしに来られるのはどんな方が多いのでしょうか?

病院内にあるサロン「こもれび」
CHECK!
- ※9院内サロン
- アデランスが病院内に展開するヘアサロン「こもれび」のこと。全国に35店舗を展開(※2020年11月現在)。プライバシーやバリアフリーへの配慮、店内での歩いての移動が不要、ウィッグの試着無料などの特徴がある。
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是枝:
私が勤務するのはがん専門の病院で、総合病院ではないため、がんの方しかいらっしゃらないんです。がんの治療のために通っていて、抗がん剤で髪の毛が抜けるからその前にヘアドネーションをという方は正直少ないですし、こちらからおすすめすることはできません。がん病院の場合は、どちらかというと外部から、ブログやSNSをご覧になって近隣の方がいらっしゃるケースが多いですね。
日本では、ボランティアは「当たり前」と言えるほどには浸透していないと思うんですが、SNSがあることで芸能人や一般の方がヘアドネーションしたことをインターネットに上げて、それを見た若い人たちが「これだったら自分にも誰かの手助けができる」と参加するのはいいことだと思います。今の時代に合っているんでしょうね。
若い世代の方がヘアドネーションされて、その方たちが家族を持ったらまたお子さんに受け継いでいって、と良い流れになっていると思います。
-
涌井:
私の病院の場合は、近隣のお子さんが一番多くお見えになっています。お母さまがインターネットで探されて、小学生の女の子がお見えになることが多いです。「今日はまだ長さが足りないから」と、再度来店されるお子さんもいらっしゃいます。
当院でもがんの治療で脱毛される方が多いんですが、やっぱり髪の毛ってすごく大事なんですよ。治療はもちろん大事だけれど、実際に髪が抜けていくのは目に見えて分かることなので「病気も治したいけど、髪も抜けるのが嫌」という方もすごくたくさんいらっしゃいますし、泣きながら髪を切る方もいらっしゃいます。
でも、ウィッグがあることで少しでも前向きに生活していける、病気を治して社会とも繋がっていけるということで、ウィッグがあって本当に良かったとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいます。そういう方たちに何かサポートができたり、お話を聞いてアドバイスができたりと、少しでも力になれればとすごく思います。
-
渡辺:
なるほど……僕は美容室も営んでいますが、「今から抗がん剤治療が始まって、どうせ髪も抜けちゃうから」と言って、女性が僕みたいに短く切ってドネーションされた方や、ご夫婦でヘアドネーションに取り組んでいたけれど、たまたま伸ばしている途中でがんが見つかって、皮肉なことですけどどうせ抜けてしまうので、とお2人ですごく短く切った方にもお会いしました。
ただ、今から治療に臨まれるはずなのに、すっきりした清々しい表情で帰っていかれるのが印象的だったんですよ。
-
是枝:
今は医師もはっきりと「がんです、治療で髪の毛が抜けます」と言うので、患者さまも決心がつきやすいところはあるかもしれませんね。前向きになるのが早い気がします。
-
渡辺:
院内サロンという現場で働く技術者として、アデランスという会社についてどう考えていますか?
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涌井:
院内サロンは、お店に「アデランス」の看板が出ていませんので、ここがアデランスだと分からないでご利用になる方も多いですね。店内に展示してあるウィッグを見て、あっ、アデランスさんだったの?とお知りになるというか。それでちょっと警戒する方がいらっしゃるのも事実です。
ただ、ウィッグサロンというよりは美容室として利用される方が多いです。治療のサイクルや通院の合間のタイミングで通いやすいサロンとして、院内サロンを利用される方は多いです。私は病院の中で働きたいという気持ちでこの会社に入ったんですよ。院内サロンで働きたくて面接を受けたら、たまたま運営しているのがアデランスという会社だった。それまでアデランスがこういう形で病院の中でお店を持っていることを知らなかったので、働いてみて大きく印象が変わりましたね。
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是枝:
もともと、院内サロンって社会貢献から始まったんです。私もボランティアで病院の患者さまの髪を切ったりしていて、アデランスの院内サロンの募集があったので入社しました。ボランティアだけではできない部分がありますし、収益がないと従業員も働くことができない。こもれびの母体であるアデランスは、その辺り上手に運営しているなという印象があります。
こもれびは、アデランスの営業店のスタッフというよりは、病院内で困っている方を助けたいという志を持って中途採用に応募した美容師が多く、患者さまを助けたいという思いで働くスタッフが非常に多いと思います。
ウィッグとの関わり方、社会との関りづらさ
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渡辺:
僕たちは今、子どもだけではなく、脱毛当事者の大人の方や、研究者の方にお話を伺う機会が多いんです。
例えば30代の女性の方ですと、JHD&Cのウィッグアドバイザーとしてレシピエントの子どもたちの相談に乗ってくださる吉田薫※10さん。JHD&Cの新しいウィッグの試着をしてくださったり、使用感などのアドバイスをいただいているのですが、その方自身は今はウィッグを脱いでいます。日常生活もウィッグなしで過ごしていらっしゃる。
独立行政法人 日本学術振興会特別研究員の吉村さやか※11先生はご自身も脱毛当事者で、ウィッグを外して生活していらっしゃいますが、「障害学という観点で研究をしているけれども、障害は当事者にあるのではなく、社会システムにある」とおっしゃいます。
それから、国立がん研究センター・アピアランス支援センター長の野澤桂子※12先生。野澤先生の言葉をお借りすれば、僕たちの活動はファンタジーだと表現されています。ウィッグ提供数では、毎年の小児がん罹患者※13の1%にしか渡せていません。それが公共の役に立っているかといえば、ほとんど幻想だ、と。
ただ、ヘアドネーションを通じて今まであまり目を向けてこられなかった部分……脱毛で困っている方がたくさんいるということを社会に広めたという意義は大きいと評価してくださっています。
問題を抱える当事者を社会に埋れさせないという問題提起として、世の中に周知していくことも大事だと思っています。
CHECK!
- ※10吉田薫
- JHD&Cウィッグアドバイザー。JHD&C主催親子イベントに登壇し、脱毛当事者として子どもたちへの啓発を行った。フラメンコダンサー、アーティストとしての顔も持つ。
- ※11吉村さやか
- 独立行政法人 日本学術振興会特別研究員。日本大学大学院で社会学を研究。脱毛当事者。
- ※12野澤桂子
- 国立がん研究センター・アピアランス支援センター長。アピアランスケア(外見支援)の提唱者。
- ※13毎年の小児がん罹患者
- 国立がん研究センターの統計によると、
2009-2011年の小児がん(0~14歳)の罹患率(粗罹患率)は12.3、AYA世代にかけてのがん罹患率は15~19歳で14.2、20歳代で31.1、30歳代で91.1(人口10万人あたり)。 - これらの罹患率を日本全体の人口に当てはめると、
1年間にがんと診断される患者の数は小児(0~14歳)で約2,100例、15~19歳で約900例、20歳代で約4,200例、30歳代で約16,300例と推計され、小児がん患者は平均して年間2100名が新たに罹患していると考えられる。
【出典:国立がん研究センターがん情報サービス「小児・AYA世代のがん罹患」】 - JHD&Cのウィッグ提供総数のうち小児がん患者はおよそ3割のため、年間の小児がん罹患者の1%未満となる。
-
今西:
髪の毛がない、持たない、失った……いろんな表現ができますが、髪がないが故に外に出にくい、社会と関わりづらいというような、当人の責任ではないことに対する社会の偏見と闘っているんですね。
吉田薫さんは、「これは慣れの問題だから。私が街を歩くことで見慣れてほしい」とおっしゃいます。その姿を見ているとそれが当たり前になって、むしろウィッグをつけていると違和感が出てくるようなのです。 やっぱり暑いそうなんです、夏は特に。異物感があるし。
-
渡辺:
もちろん、本人が望んで長い髪のウィッグを手に入れて、それを被ってすごく喜んでいるのであれば、全然それでいいんです。
ただ野澤先生は、子どもが望んでいないのに親がウィッグを被せることによって、「親にとっても隠さなければならないほど、恥ずかしい症状・病気なんだ、私は社会に対して恥ずかしい存在なんだろうか」と思ってしまうことについて問題提起をされています。本人が欲しいとも思っていないものを、親が追いかけ回して被せちゃダメなんだという言葉で表現されていますが、僕もそんな話を実際に聞くことがあります。
ヘアドネーションの広まりとともに、今までは光が当たらなかった当事者の方たちが少し声を上げ始めたように感じています。
ウィッグを否定も肯定もせず、ウィッグをウィッグのままで認めるというように、ヘアドネーションを通じてウィッグを取り巻く世の中が変わり始めている。
ウィッグはいらないという人、私には絶対ウィッグが必要なんだという人、そういう多様性がやっとウィッグの世界にも出始めたのかなと思うんですが、「ウィッグの現場」で働く皆さんはどういう思いで仕事に臨まれているのか、自分たちの業界をどのように思ってらっしゃるんでしょうか。
ウィッグの現場─治療、就労支援─
-
是枝:
やっぱり、初めてがんになって、抗がん剤治療をするので脱毛しますって医師に言われて当店に来られる方にとって、ウィッグを使うのは本意ではないんですよ。本当は使いたくない。

病院内美容室「こもれび」 是枝貴彦さん
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是枝:
がんを宣告された方は自問自答して「なんで私ががんにならなきゃいけないの、世の中いっぱい人がいるのに私だけ」っていう気持ちから始まって、でもやっぱり生活や仕事をしなきゃいけないということで、足を運んでいただいているというのが現状なんです。
初めは否定的な方もいらっしゃいますが、ウィッグをつけたことによって明るさを取り戻して、元気になって今までと同じ生活ができるんだなと思っていただける。
私たちが提供しているウィッグはいわゆるファッションウィッグではないので、変化を求めていないというか、今までの自分と同じ髪型にしたい方がほとんどなんです。だから私たちもなるべく地髪に近づけるようにしています。
今は「就労支援」といって、がんになってもなるべく今までと同じ生活、同じ仕事をしてくださいと医師も勧めるんですが、そのためには見た目も大事で、病院も率先して「ウィッグをつけたほうがいいですよ」と指導するんです。
一概に、ウィッグの全部が悪いとは私は思わないですが、ただ、お客さまがどうして当店に足を運んでくださったのか、その経緯をしっかりお伺いしてからご説明するように心がけています。
渡辺さんも「最終的にはJHD&Cやヘアドネーションが必要なくなればいい、みんなの偏見がなくなれば一番いいんだ」とおっしゃっていましたが、なかなか、まだ難しいところもあると思います。ウィッグというのは自分の外見を守るために必要なものでもあると思うので、その方が欲しいと思えば提供すべきだと、私は思います。

病院内美容室「こもれび」 涌井えりかさん
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涌井:
ご自身が必要になってウィッグを作られた方でも、家に帰ってまず最初に何がしたいかというと、靴より先にウィッグを外したいという方が多くいらっしゃるので、それが本心なんだろうなって思います。
自宅でもウィッグを外さない、見せたくないという方、自宅ではありのままでいられるという方、その方その方の生活やお気持ちがあると思います。
ウィッグをつけている方がウィッグを卒業する、それを間近で接客させていただくと、長いウィッグを地髪に近づくようにどんどん短くして、地髪のデビューまで携わらせていただく中で、いろんな過程を目にします。
ウィッグがあって良かったという方もいれば、あまり使わなかったという方もいらっしゃる。その方が必要とされるのであれば、その方に似合うものであったり、その方がどういうふうに使用されるか、使い方は合っているか、いろんなことを日々考えて、その方の生活が少しでも良くなればいいなと思います。
男性の方でも、どうして帽子で仕事ができないんだろうという方や、ウィッグがあるから仕事が続けられたという方がいらっしゃる反面、コロナでテレワークになったからウィッグをあまりつけなくなったという方もいらっしゃるので、時代の変化に合わせて自分の考え方も変えて、より良い生活や商品が増えていけばいいなと思います。
学校生活におけるウィッグへのハードルとみんなが「知る」機会
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渡辺:
安藤先生はこの話題について、何か思うところはありますか?

北海道帯広三条高校 放送局顧問 安藤佳寿哉先生
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安藤:
うーん……社会と学校って、やっぱり少し尺度が違うんですよね。学校は校則がありますので。
ウィッグをつけている生徒がいるとすると、多分それは許可制になるんです。でないと、あの人のウィッグはいいのに、私のファッションウィッグはなぜダメなのかっていう話になってしまう。千人千通りの考え方がある中で、何がその人のためになるのかという妥協点を探すんです。お互いに寛容になれたらいいんですが、どうやってバランスをとっていくのか、学校はまだハードルが高いですね。
教員の中でも、良いという人もいればそうでない人もいるし、どちらでも良いという人もいる。地域差も大きいと思います。絶対的な良い悪いを決めるのは難しいですが、ただ、医療的なことを優先するということを決めれば、医療用ウィッグをつけるのをダメと言う人はいないと思うんですよ。
私の学校にはウィッグをつけている子はいないと思うのですが、例えば髪が薄い生徒が部分的にでもウィッグをつけたいと言ったら、届出制になるのか、許可制になるのか、それとも「つける必要はないよ」と自然体のままでいられるのか、分かりません。
どうして分からないかというと、教員が勉強する機会がないからです。
だから、教員個々の知識で対応するしかなくて、経験値が浅い教員はダメだと言うだろうし、知識がある教員は寛容な態度を取るだろうとなってくる。学校は多分、そういう知見はまだ狭いんです。研修する機会があれば変わってくるかもしれないですね。40人学級の中には、必ず1人や2人、髪に悩んでいる生徒がいるんですよ。
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渡辺:
いますよね、だって脱毛症の方って30人に1人から2人いらっしゃるんですから。
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安藤:
でもその子たちは誰にも相談できないんです。マイノリティだから。
だから、そういう研修会や講演会を学校がやるとなったら、その子たちにとっては「少なくとも受け入れられる場がある」ということを知ることができます。それは大きな支えになると思います。
学校側も、そういう生徒が連続して在籍していたら対応が分かってくると思うんですよね。でもそういう子は表には出てこないし、人も入れ替わっちゃうから、経験の受け継ぎができない。だから勉強する機会があったらすごく良いと思います。
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渡辺:
アデランスさんが学校に啓発活動をするっていうのはどうですか?講習会をやりましょうよ!確かに、学校に1人でもウィッグや脱毛の子がいた場合、その子に対して学校がどのように受け入れるのか、本人はもちろんですけど、周りの人も戸惑いますよね。
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安藤:
いきなり学校全体が変わるって難しいと思うんですが、例えば保健室の先生、養護教諭の研修会でそういう場を設けられたら、変わっていく気がします。
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渡辺:
僕たちもウィッグの当事者にスポットを当てがちですが、それを受け入れていく社会、コミュニティの側にも教育がないと受け入れにくいものなのですね。当事者と受け入れ側、フィフティ-フィフティで両方に知識が必要なことを、僕も今、改めて気づかされました。みんなが知っていくことが大事なんですよね。
-
安藤:
研修会、ぜひ考えてください。
-
大里:
医療の分野では相談会、勉強会を行っているんですよ。それを学校現場で、会社を巻き込んで、やれないことはないと思います。
-
渡辺:
まずは、北海道帯広三条高校にぜひ!
これが実現したら素晴らしいですよね。きっと他の学校にも連鎖していくんじゃないでしょうか。大里さん、新田さん、ぜひよろしくお願いします。なんといってもアデランスさんは「学生さんからの想いに応える企業」ですし。今日は皆さん、お忙しい中ありがとうございました。これからの課題や展望が見えた気がします。今後とも、どうぞよろしくお願いします!!

集合写真
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