JHD&C×花王
髪の毛の研究に関わる花王とJHD&Cの座談会-4
研究開発のテストに欠かせない評価毛について、
疑問、偏見、「普通の見た目」とは何なのか、
そして花王という会社と仕事について語っていただきました
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JHD&Cと花王とのつながり─社会にある問題─
渡辺:
JHD&Cと花王さんとの繋がりって、実は2009年、JHD&Cの立ち上げの前からなんです。
当時、僕はカラーリストとして花王さんの社内モニタリングに関わっていたんですが、美容師の渡辺個人とではなく「JHD&Cというヘアドネーション団体」としてのつながりは山口さんがきっかけでしたよね。
山口:
はい。私は当初、和歌山県の研究所で研究をしていたんですが、その頃、がんに罹患して脱毛を経験しました。2013年ごろのことです。

半年くらい休職していましたが、抗がん剤治療で髪は全部抜けていて、会社に行く時にウィッグをかぶっていました。
私の場合、ちょっと産毛が生えたような状態で人に会うのがすごく抵抗がありましたね。当時、鏡もあまり見ることができなかったんですよ。お風呂に入る時は一応自分でも見るんですけど、ちょっと目を逸らすような感じ。だから外に行く時も帽子かウィッグでした。
復帰した時は少しクリクリの髪があるくらいのベリーショートで、職場の人にはウィッグを外した時に「えっ?」って言われたくらいですかね。いや実は今までウィッグかぶってたの、みたいな。周りの方はウィッグだと気づいていなかったようです。
CHECK!
- 抗がん剤治療
- 薬を用いてがん細胞を死滅させたり、がん細胞の増殖を抑えたりする薬物療法のうち、抗がん剤を用いる化学療法のこと。がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響が及びやすく、副作用が大きい傾向がある。主な副作用に、吐き気・嘔吐、脱毛、骨髄抑制などがある。
渡辺:
毛質変わりますもんね、抗がん剤とかで。
山口:
何ででしょうね。普通の毛根から生えてきて一回ダメージを受けた後の最初の髪って、クリクリになるんですよ。
長瀬:
徐々に元に戻ってきた感じなんですか?
山口:
徐々に戻りましたね、私は。今はまっすぐです。
その後、2015年にすみだ事業所に異動になり、マネージャーのお仕事をするようになった時に思ったんです。花王は髪に関することをいろいろやっているんだから、もっとできることがあるんじゃないかって。
当時の私にとってウィッグは、頭皮が抗がん剤で繊細になっているということもありましたし、初めてウィッグを使うわけです。
何が似合っているのか、どのようなものを選べばいいのか分かりませんでしたし、ウィッグというものを「特殊な人が仕方のない事情を抱えて使う、おしゃれじゃないもの」として捉えていて、すごく嫌だったんです。
「なんで花王はこういうところに力を注いでいないのかな」という思いがありました。
いろいろ調べている時に、同僚から「花王のカラーモニターとしてお付き合いのある渡辺さんという人が、ヘアドネーションの活動をしているよ」と教えてもらったんです。
それで、2016年に当時のJHD&Cの拠点だった渡辺さんのサロンにお伺いして、JHD&Cさんの取り組みやウィッグについて、花王としてもっと踏み込んでやってみたいですとお話ししました。

渡辺さんから、「髪も必要だけど、ウィッグを作るにはお金も必要」ということを伺って、花王ハートポケット倶楽部での寄付(一時金)などもしながら、継続的に廻る仕組みの構築をしようと考えました。
ヘアケア研究所でJHD&Cさんから評価毛を譲り受けることになり、2017年に渡辺さんにヘアドネーションについての講義をしていただきました。
同じ年からJHD&Cさんの夏休み親子イベントが始まって、花王も「JHD&C応援団」として共催しました。年々、つながりが深まってきましたね。



渡辺:
そうそう、2017年11月の「超福祉展」にもパネラーとして登壇して、いろんなお話をしていただきましたよね。

CHECK!
- 花王ハートポケット倶楽部
- 花王グループ社員による社会的支援を目的としたクラブ組織のこと。
- JHD&Cさんの夏休み親子イベント
- JHD&Cが主催するヘアドネーション啓発イベントのこと。2018年、2019年には、JHD&Cの活動に共感する多数の企業が「JHD&C応援団」として共催した。 詳しくは活動レポート参照。
- 超福祉展
- 2014年に東京都渋谷区でスタートした、超福祉社会の実現を目指すイベント。福祉そのものに対する「意識のバリア」をアイデアやデザイン、テクノロジーで超えるプロダクトや開発者を数多く紹介。JHD&Cは2017年に「ヘアドネーションの活動と、活動を通じて考える多様性とは」をテーマにトークセッションを行った。
山口:
以前、渡辺さんが「ウィッグなんかは実はない方がいいんだ」っておっしゃっている記事をお読みしていて、それが結構衝撃的でした。
サロンに伺った時、私はウィッグのことを「やっぱりカバーするものって必要だよね、でも使いにくいからもう少し使いやすくすればいいよね」と思っていたので。
私も最初はJHD&Cさんの活動について、頭髪に悩みを抱えている子どもたちにウィッグを作って無料で差し上げているというくらいの知識しかなかったんですが、髪がなくても普通に見てもらえる、かわいそうなんじゃなくて、そういう子もいるしこういう子もいるし、そういうことなんだなーっていうのを、その時に色々お話ししたんですよ。

渡辺:
ウィッグがいらないというよりは、本来、ウィッグはウィッグとして楽しめばいいし、様々な事情で必要な人がいるわけですよ。
ところが、ジロジロ見たり、笑ったりするという社会にある差別、僕ら1人1人が無意識に持っている差別意識や偏見の問題があります。
ウィッグの人たちには何の咎(とが)もないんです。体質や病気、治療で抜けているわけで。社会の方にある問題が大きい。
そういったことから、「そっとしておいてほしい、触れないでいてほしい」っていう人たちの方が多いんです。
僕らが持っている差別意識や偏見と向き合わない限り、脱毛だけじゃなくていろんなハンディキャップみたいなものに対する理解は進まないと思います。
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