JHD&C×花王─花王ヘアケア研究所・評価毛─
花王株式会社とJHD&Cのパートナーシップのはじまりは『評価毛』でした。
ドナーが数年かけて伸ばし、寄付してくださったドネーションヘアのなかには、『評価毛』として役立てられる髪の毛があることをご存じでしょうか。
このページでは、花王ヘアケア研究所にご協力いただき、評価毛についてご紹介します。
なかなか一般には知られていない評価毛を活用した研究の様子をぜひご覧ください!
花王ヘアケア研究所より画像提供:評価毛
花王ヘアケア研究所より画像提供:研究所
【関連リンク】JHD&C×花王─ヘアドネーションがつないだパートナーシップ─
目次
- 評価毛とは?
- 評価毛用の髪の毛を選別
- 選別した髪の毛で評価用の毛束(トレス)を作る
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トレスを使った評価試験
- シャンプーの洗浄性能テスト
- カラーの染色テスト
- 白髪染めの染色テスト
- スタイリング性能テスト
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毛髪の研究
- 実体顕微鏡で毛髪の色を調べる
- レーザー顕微鏡で、毛髪の表面の様子を調べる
- 毛髪の断面を調べる
- 毛髪の断面を調べる
1.評価毛とは?
ヘアケア製品やカラー・パーマ剤など、「髪」にまつわる製品を研究開発する際には、製品の性能や使いやすさに関するさまざまなテストが欠かせません。
そのテストに使用する毛材のことを、評価毛(ひょうかもう)といいます。
幅広い年齢や性別、さまざまな髪質や髪色などで評価試験をするため、花王ヘアケア研究所では、JHD&Cに寄せられるヘアドネーションのうち、31cmに満たない短い髪の毛を選別して買い取り、評価毛として役立てています。
2.評価毛用の髪の毛を選別
花王ヘアケア研究所の研究員が1年に数回、評価毛用の髪の毛を選別するためJHD&C事務局に訪れます。
ドナーがドネーションヘアに添えてくださっている「ドナーシート(任意で髪の毛の状態を記入して同封する用紙)」には、ドナーの年齢やパーマや縮毛矯正、カラーなどの履歴が記されています。(名前や住所などの個人情報は含まれません)
これらの髪の毛の履歴は評価毛選別において大切な基準となります。長さと髪の毛の状態を確認しながら、手際良く選別していきます。
花王ヘアケア研究所の研究員さん
ドナーシートを見ながら評価毛選別作業
CHECK!
評価毛として買い取られるのは、JHD&C事務局に寄せられた皆さまのドネーションヘアのうち、毛束のなかの長さが31cmに満たない髪の毛です。髪の毛は毎日抜けて生えますが髪の毛一本一本の成長が異なることや、伸ばしているあいだに切れたり、また、ヘアスタイルによって、お一人分のヘアドネーションの中には31cmに満たない毛髪が含まれます。
JHD&Cのウィッグ製作には、頭をすっぽりと覆う全頭用ウィッグに用いる毛髪の世界的な基準「12インチ」をセンチメートルに換算した31㎝以上の長さを必要としています。
評価毛買い取りについては花王独自の基準に基づいております。ドナーご自身の「私の髪を評価毛に使ってほしい」「花王に直接髪を送りたい」といったご要望にお応えすることはできません。ご了承ください。
3.選別した髪の毛で評価用の毛束(トレス)を作る
評価毛は、トレス用、研究用に分けて使用します。
トレスとは、カラー剤やパーマ剤などの薬剤の品質や効果、シャンプーやスタイリング剤などの性能や使用感など多岐にわたるテストを行う際に使われます。
開発された製品は「人間の髪の毛」に使用されるため、テストも「人間の髪の毛」に行います。そのために欠かせないのがトレスなのです。
1.髪の毛の先にボンドをつけて台紙に貼ります。
2.上からも台紙で髪の毛を挟み、できるだけ平らにならします。
3.評価用の毛束のできあがり!この状態を「トレス」と呼びます。
4.トレスを使った評価試験
シャンプーの洗浄性能テスト
作成したトレスをさまざまな処方のシャンプーで洗髪して、手で触れた感触や、目で見た色つやの良さをチェックして、仕上がりが良い処方を選びます。
カラーの染色テスト
トレスにカラー剤を塗布します。
さまざまな処方のカラー剤で染めてみて、良い色の処方を選びます。
良い色を見極めるポイント
- 髪の太さや硬さなど、さまざまな髪質で
- 直毛や巻き髪など、さまざまな髪形で
- 家の中や屋外など、さまざまな場面で
- 根元から毛先まで、染まり方にムラがないか
- 髪色を測定する装置もありますが、最後は人の目でチェックします
白髪染めの染色テスト
白髪染めは、どの処方がより白髪が染まるかをチェックします。
スタイリング性能テスト
トレスをさまざまな処方のスタイリング剤でセットしてみて、どの処方がスタイリングしやすいか、きちんとセットできるかを検証します。
ほんの少しの処方の違いでも、仕上がりに大きな差が出ることもあります。
花王ヘアケア研究所ではJHD&C以外からも評価毛を調達しており、写真に写っているロングヘアのトレスはJHD&C以外のものです。
JHD&Cが評価毛として提供しているのは「31cm未満」の毛髪だけで、それらには「ドネ」と記載されています。
トレスにつけられたシールに「ドネ」の文字が!
5.毛髪の研究
顕微鏡や特殊な機械を使用して、さまざまな毛髪の研究を行います。
製品の開発にもとても重要なプロセスです。
実体顕微鏡で毛髪の色を調べる
画像A:実体顕微鏡
画像B:実体顕微鏡で拡大した毛髪
毛髪を実体顕微鏡で拡大して見ると、画像Bのように髪色が濃く見える部分と明るく見える部分があることがわかります。
明るく見える部分は、毛髪の内部に空洞が発生し光を乱反射している部分。
空洞以外にも、毛先に枝毛が発生すると枝毛の断面で光が乱反射するため明るく見えます。
このように、実体顕微鏡で毛髪の色を観察することで、毛髪内部の空洞や枝毛などさまざまな状態を調べることができます。
CHECK!
- 実体顕微鏡とは
- 顕微鏡には、透過光を観察する普通の顕微鏡や、蛍光を観察する蛍光顕微鏡など、目的に応じて様々なタイプの顕微鏡があります。
実体顕微鏡は、その名の通り、物体の様子(実体)をそのまま観察できる顕微鏡です。透過光を観察する普通の顕微鏡は、光を観察試料の反対側から当てて透過した光を観察するため、髪の毛を観察すると逆光写真のように黒っぽいシルエットのように見えます。
これに対して、実体顕微鏡では光を様々な方向から当てて試料を観察することができます。それゆえ、太陽光の下で人の頭の髪を目で見るように、髪の毛の様子を拡大して細かい部位の色の違いを直接観察することができます。
レーザー顕微鏡で、毛髪の表面の様子を調べる
根元と毛先の違いや、カラーをする前と後などの比較をします。
レーザー顕微鏡で毛髪表面の様子を観察
画像C:毛髪の根元付近
画像D:毛髪の毛先付近
画像Cは根元付近、画像Dは毛先付近の表面の様子です。いずれも左側が根元方向、右側が毛先方向です。
画像Cの根元付近ではほとんどダメージを受けていないため、毛髪表面にウロコ状のキューティクルの構造がしっかり観察されます。
一方、画像Dの毛先付近では、ダメージのため毛髪表面のキューティクルが部分的にはがれている様子が観察されます。
毛髪保護成分を含むコンディショナーを使うなど、毛髪を丁寧に扱ってダメージを防ぐと、毛先でもキューティクルが残っている様子を観察することできます。
このように、レーザー顕微鏡で毛髪表面の様子を観察することにより、コンディショナーなどの毛髪保護効果を調べることができ、より良い製品開発に役立ちます。
CHECK!
- レーザー顕微鏡とは
- レーザー顕微鏡は、髪の毛の表面にレーザー光を当てて、反射した光の様子を観察するため、表面の凹凸構造をよく観察することができます。髪の毛の表面のウロコ状のキューティクルの状態を調べるときなどに使用します。
毛髪の断面を調べる
髪の毛の中の様子を調べるときは、ミクロトームという装置で毛髪を輪切りにして断面を調べます。
ミクロトームは顕微鏡で観察する断面を切り出す特殊な装置です。
この装置を使うと、厚さ1ミクロン以下の断面を切り出すことができます。(1ミクロンは、髪の毛の太さの約100分の1の厚さです!)
下の画像は、断面を特殊な薬剤で染色し、蛍光顕微鏡で調べている際のものです。
このほか、毛髪の輪切り断面を電子顕微鏡で観察して、根元と毛先で毛髪内部のミクロな構造がどのように変化するかなども調べます。
電子顕微鏡
画像E:根元の毛髪断面
画像F:毛先の毛髪断面
画像Eが根元、画像Fが毛先の毛髪断面です。
根元の断面(画像E)では、写真上部にキューティクルが層状に観察され、写真下部に毛髪内部に組織が密に詰まっている様子が観察されます。黒い点々は、髪色の元であるメラニン色素です。
一方、毛先の断面(画像F)では、写真上部のキューティクルが全くなくなっている様子や、メラニン色素が分解されて白く抜けた空洞が発生している様子が観察されます。
このように、電子顕微鏡で毛髪の輪切り断面を観察することにより、ダメージで毛髪内部組織がどのように変化しているのか、突き止めることができます。さらに、ヘアケア製品を使用することにより、組織の変化が防止できるのか、あるいは元通りに直るのか、検証することができす。
CHECK!
- 電子顕微鏡とは
- 電子顕微鏡では、光よりも細かく絞ることのできる電子線を当てて髪の断面を観察するため、髪の毛の中の更に細かい構造を観察することができます。電子顕微鏡を使うことにより、キューティクルの層状構造やメラニン色素の細かい構造を詳しく調べることができます。
毛髪の強さを調べる
毛髪を1本取り出し、レーザー光線で毛髪の太さを測定します。
毛髪が切れるまで機械で引っ張って、毛髪の強さや、ダメージで切れやすくなる原因を調べます。
さらに毛髪を機械で折り曲げ、硬さを調べます。
この検査でハリやコシのある髪の毛、あるいはハリやコシのない髪の毛それぞれの特徴や原因、また、切れやすい髪の毛の原因を調べています。
毛髪の強さを調べることで、ダメージを受けて弱くなった毛髪をより丈夫にするための研究や、できるだけ毛髪にダメージを与えない商品作りに役立てられています。
このように、JHD&Cに送られたドネーションヘアのなかのウィッグとして使用するには長さが足りない髪の毛も、研究開発のための評価毛として活躍し、ヘアドネーション活動の一環として大切に役立てられています。
取材にご協力くださいました花王ヘアケア研究所の皆さま、ありがとうございました。